発声を学んで世界が変わった話

この記事は「アカペラアドベントカレンダー2019」21日目の記事です。

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20日目は 倉田京 さんが素敵な曲を書いてくださいました。

【書き下ろし】Nine【5声】

私が倉田京さんのことを最初に知ったのはsuisaiさんがカバーされた「聲」という曲でした。目を閉じて聴くとどこか遠くの、それでいてどこか懐かしい情景が浮かんでくるような、不思議な気持ちになります。倉田京さんの音楽は「詩」と「歌」が美しく折り重なっていて、聴いていると本を読んでいるような感覚になります。本当に好きで、心から尊敬する作曲家です。

 

ライター紹介

長澤宏史

東京理科大学「chum」3期(アカペラ4年目)

-大人数×ダンス×アカペラ-彩々 所属

主なパート:ベース

主な活動グループ:Quap

 

はじめまして!この度アカペラアドベントカレンダー21日目の記事を担当させていただくことになりました。

私は「発声について学んだことで、その後のアカペラ生活(+実生活)にもたらした変化」について、私の経験を述べさせていただきます。

 

企画から私達ライターのサポートまで沢山お世話になりましたACAPPELLER.JPと、アレンジャーの会の皆様に感謝申し上げます。

はじめに

私は「発声を改善したことで良い演奏ができるようになった」人間です。練習しても全然上手くなる気がしないという人、声に関して悩みがある人、自分の声がコンプレックスという人、そんな方々に発声を学ぶ、ボイトレについて興味を持っていただき、自分の声を変えていく楽しさを知るきっかけになれば幸いです。

ボイストレーニングの種類

一言にボイストレーニングといっても教わるボイストレーナーによって内容や方向性は様々です。これについて、ご自身もボイストレーナーであり現在多方面で活躍されているしらスタさんが記事を出されています。

utaukimochi.com/2019/02/02/post-197/

 

この記事の「ボイストレーナーを3種類に分類してみた」では、

①発声特化型

②歌唱特化型

③プロデューサー型

という分類になっていて、私も今回この分類法を使用することにします。

 

後述するボイストレーナーの伊藤さんはこの分類でいう ①発声特化型 に当てはまります(ご自身がそう仰っていました)。

私は②や③のボイストレーナーに教わったことはないので、これから書く内容がそちらに関しても当てはまるかは分かりません。そこはご理解いただけると幸いです。

私がお世話になっているボイストレーナー伊藤俊輔さんの紹介

京都アカペラサークルCrazyClef OB

「解剖学など様々な根拠に基づいた論理的な指導」を行うことで有名なボイストレーナーです。現在も日々進化する最先端の発声理論を研究され続けていて、解剖学のみならず、音声学、音響学、心理学、物理学、声楽史、芸能学、音楽理論、音楽ジャンルなど様々な観点から発声についてアプローチされています。

伊藤さんのご協力もあり、この記事を書きあげることができました。改めて感謝を申し上げます。

私のボイトレ記

それでは実際に私がボイトレを始めるまでと、始めてから今に至るまでに感じたことを時系列で綴っていきます。

※この記事では実際に教わった詳しい内容についてあまり多く公開することは致しません。そのため少し曖昧な表現になる部分がございますがご了承ください。

(開始前)当時の課題、発声を学ぼうと思った理由

元々私は全くもって声が良い人間ではありませんでした。ベースが好きだったのでこのパートにこだわっていましたが、声量も響きも無く音のアタック感も出すことが出来なかったので練習でも「ベース全く聞こえない」と言われることも多々ありました。

それでも自分なりに発声の改善に取り組み、アカペラ3年目に突入した頃にはだいぶ声量や響きも改善されてきました。しかし当時、以下のような悩みがありました。

・ロングトーンの息が続かない

・アタック音や響きを出すために凄く力んで出している(そのせいで音のタイミングがずれることも多い)

・本番になると演奏がめちゃめちゃ走る

・(サークルで先輩の立場になったため)後輩に教えることができない

・今後上達するためにどうしたらいいか分からない

 

このうちの下2つが特に自分を悩ませていました。自分なりに試行錯誤した結果昔よりは声質も改善されましたが、結局やってきたことの何がそこに繋がっているのか自分の中で理解できていなかったので何も教えられない、言語化できないという状況でした。

そして何より、自分の中でこれ以上良くなる兆しが見えないような「壁」にぶつかっていました。

そうしたときに偶然ご縁があり伊藤さんと知り合うことができ、思い切って東京から夜行バスで京都に向かい、体験レッスンを受けることにしました。

これが2018年の6月前半でした。

最初の気付き

弾丸京都旅行で伊藤さんの教室「LogiVo」に伺い、50分の体験レッスンを受講しました。そこでは驚きと気付きの連続でした。

先ずは喉まわりの筋肉や発声に関わる器官を知るために図を見ながら解説をしてくださりました。そこで初めて知ったのは、私は「首回りの筋肉を発声時に過剰に使いすぎていた」ということです。

当時の悩みの一つであった「力んで出している」というのは、本来使われるべき部位が適切に働いていないため他の部位で無理やりその働きを補おうとする「代償動作」によるものでした。力むことで確かにアタック感を出したり響きを作れていても、その動作は極めて無駄が大きいため結果的にタイミングを合わせるといったことが困難になっていたのです。

また立っている時の姿勢が悪いことも気付きました。自分の中では自然な(つもりの)姿勢だったのですが、腰が少し前に出ており、首も前に傾いている状態になっていたのです。姿勢が悪いと呼吸と発声にも影響するため、それが根本の原因になっている可能性もありました。

新しい発見ばかりの50分が過ぎたら、その後月1回のボイトレを遠隔地ということでスカイプにて受講することにしました。

2018年6月後半のことでした

半年後

最初に始めたのはボイトレにおいて基本となる「不要な部分の力は抜いて、目的の部分だけを動かす」ということでした。無理に力まなくても求めている音を作れることを知り、だんだんと演奏においても力みが少なくなっていきました。

この年はQuapで沢山の演奏機会をいただいた年で、9月以降は富士アカペラフェスティバル、JAM2次審査、ソラマチアカペラストリートfinalステージなど大きなステージでの演奏も多数ありました。

このようなステージでも以前と比べると走ったり縦がずれることが少なくなったように思いました。

1年後

Quapが活動休止期間に入り、新たにchumで組んだグループでも渋谷アカペラストリート、金沢アカペラタウン、chumのサークルライブ、カマクラアカペラサミット、伊達アカなど色々な舞台での出演を果たしました。

このころには発声器官の各部位も比較的自由に制御することができるようになってきており、ベースでもより繊細な表現やフレーズ感を意識した演奏ができるようになってきました。同時に、呼吸筋や発声の支えとなる部位も上手く使えるようになり、緊張しても声が震えたり息が足りなくなったりすることを防げるようになっていきました。

このような自分の中で感じていた変化が客観的に評価されたのが”金沢アカペラ・コンクールでのベストベーシスト賞受賞”だと思っています。この時の「花色の飛沫」というグループは5声でバラードを主に歌っていたのですが、曲の世界観作りや流れ・表現にベースが大きく貢献できたこと、課題曲の「愛は勝つ」を敢えてアップテンポのままアレンジしバラード一辺倒ではなく多彩な表現をベースでも魅せられたことで、他の出演者と差をつけることができたのではないか、と私は考えています。

ボイトレにより、表現の幅や引き出しが飛躍的に増え、どんな状況でも安定したパフォーマンスができるようになりました。

1年半後(現在)

発声についての理解が深まってきたので、後輩に発声の指導をしたりアドバイスをすることができるようになりました。自分自身も更なる声質の改善、使用可能な音域や音色の幅・引き出しを増やすべく伊藤さんのご指導のもと日々研究しています。そして自分にとって1番大きな変化は

「上手くなることへの限界を感じなくなった」

ということです。

発声について原理から学び自分の中に落とし込んでいくと、声を出すことがとても自由なものになり、できないことが少なくなったため昔はできなかった曲にも挑めるようになりました。

努力すればどこまででも上手くなれそうな気がするのと、努力しても自分の変化に限界を感じてしまうのとでは、仮に結果が同じだとしてもその過程が楽しく感じるか辛く感じるか2分されると思います。

勿論どこまででも上手くなれる、は言い過ぎかもしれませんが、少なくとも私は自分の限界の壁は今はまだ見えないほど遠くに飛んでいったと感じています。発声について学んだことで自分の限界突破を果たしたと思っています。

そして、今はアカペラをすることが本当に楽しくて仕方がありません。

発声について学んだ今、考えること

楽器のレベル上げと演奏者のレベル上げ

アカペラは「声」が楽器です。私達アカペラーは「声」という楽器を使う演奏者ということができます。

ここでこの「楽器」と「演奏者」を分けて考えてみましょう。

例えばギターを使った演奏で、演奏の質を左右するのは「楽器の質」と「演奏者の腕」両方だと思います。どんなに素晴らしい演奏スキルを持つ人でも、ロクに音が出ず、出たとしてもすぐに消えたり音量も安定せず、チューニングも数秒で狂ってしまうようなギターでは良い演奏をすることはできないと思います。逆に、何十万もする最高のギターを最高のコンディションで持っていたとしても、演奏者が素人だったらいい演奏はできません。楽器と演奏者、両方のレベルが高いからこそいい演奏が可能になります。

上の状況を

①「楽器Lv.1、演奏者Lv.100」

②「楽器Lv.100、演奏者Lv.1」

③「楽器Lv.100、演奏者Lv.100」

と例えることにします。

アカペラでも似たような考えをしてみると、一般的に上手いとされる方々は当然ながらになるでしょう。

①と②についてはどうでしょうか。②に近い例として「いい声を持っているのに歌い方がイマイチ」みたいな状況はあると思いますが、①ってあまりいないのではないでしょうか。

これについて私が考えているのは、「演奏者レベルを上げるためには楽器レベルも上げないといけない」のではないかということです。

 

イメージとしてはこんな感じです。ゲームとかでよくあるやつ。

具体的な例としては発声を改善することで「ピッチを中々合わせられなかったのができるようになった」とか、「ビブラートが全然かけられなかったが簡単にできるようになった」とか「ロングトーンを伸ばしやすくなり更に抑揚も付けられるようになった」とかあとは単純に「以前よりハモるようになった」とかです(全て実際にあったことです)。

実際にアカペラ初心者がつまずくことって発声を改善すれば簡単に治せることが多いような気がしています(スターティングバンドとか)。

上手い人の真似をすれば上手くなるよ!っていうけど…

歌が上手い人に「どうやったら歌上手くなりますか?」って聞くとよく上のような答えが返ってくることはないでしょうか。実際これは間違いなく効果のある方法だと思いますし、効率もいいと思います。

でも意外とこれで効果がある人と効果が出にくい人がいると感じています。

理由は簡単で真似する対象が「楽器Lv.60以上じゃないとできない演奏技術だった場合、楽器Lv.30の人が真似しようとしても、できない」からです。

もっと悪い例は「真似したつもりが実は全然違うやり方だった」というパターンです。実際に私が経験した例としては「鼻にかかっているように聞こえる柔らかい」歌声を「鼻にかけて」真似しようとしたけど寧ろ悪化してしまったといったものです。これに関しての答えは「実際は鼻にかかっておらず、声帯の使い方等の他の要素で柔らかい声を出していた」というものだと今になってわかりました。間違ったやり方を続けて変な癖がついてしまうことも、発声の知識をつけることで防ぐことができます。

真似ができない、という人は案外楽器レベルを上げると信じられないくらい簡単にできるようになるかもしれません。

”急がば回れ”です。

 

実生活での変化

実はボイトレにより実生活にもいい影響が沢山ありました。以下のようなものです。

・姿勢が良くなった

・プレゼンや発表で上手く喋れるようになった

・声を出す仕事が楽になった

・英語の発音を真似しやすくなった

 

私は今年の5月ごろまで就活をしていたのですが、特に上2つはここで非常に生きたと感じています。就活前にボイトレしててよかった…

また飲食店のバイトでオーダーコールを結構大きな声で言う必要があったのですが、「楽に」「効率よく」通る声を出せるようになったので全く苦ではなく、声を嗄らしたこともありませんでした。

そして口の中やその周りの部位を意識して自由に動かせるようになったので、英語での口の使い方を真似しやすくなりました。英語の発音が苦手な人というのは、「英語で使う口の使い方」ができないことが原因の1つだと思います。日本語では使わない舌や口腔内の動かし方をする必要があるため、自由に動かせないと英語の発音を真似するのは困難になるのだと考えています。

 

というふうに、多くのことがいい方向に動いていったので決して大げさでなく「世界が変わった」ように感じています。

 

まとめ

ここまで読んでいただきありがとうございました。あくまで私の経験ですので全ての人に当てはまるわけではないと思いますが、嘗ての私と同じような悩みを持っている誰かにとって、今後良い方向に向かうための参考になれたのなら嬉しく思います。

発声は実はまだ解明されていない部分も多く、今後更に研究が進められていく学問分野です。この興味深い学問を今後も私は学び続けていこうと思っています。

 

明日の「アカペラアドベントカレンダー」の記事は、シャインさんの「アレンジャー必見!ドミナントコードリハモテク4選です。お楽しみに!!