#8 『みなと』楽譜解説

こんにちは、suisaiのKomeiです。

今回は、私たちが活動初期から歌ってきた楽曲である、
スピッツさんの『みなと』の編曲譜についてお話ししたいと思います。

既に楽譜をお持ちの方はお手元にご用意頂き、
ぜひ照らし合わながら読んで頂けるとよりお楽しみ頂けると思います。

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◆原曲について

・作詞作曲:草野正宗

草野さんは「意味があるようでないようである歌詞」を書く方で、この曲にも一聴して意味の通らないセンテンスやフレーズが出てきますが、それには言葉の意味そのものだけに止まらないきちんとした意味があります。

決して難しい言葉は使わず、メロディが先にある中で「直接的にならないよう」曲が組み上げられていることに配慮しつつ書きました。

もちろん、彼らのアイデンティティである、生()と死の概念についても。

 

Keyと曲調

元々は比較的ロックなサウンドで、儚さというよりもしっかりと今を生きている人間の姿が浮かぶ楽曲でしたが、UruのカバーVer.を参考に、原曲のE調よりも淡い色味で、どこか透き通った空虚感がある3つ上げのG調を選択し、女性リードに。

ともすればポップで俗な曲になり易いKeyであり、「分かりやすい」サウンドに転じる可能性が高いと感じていたので、編曲を始める前からその辺りはかなり気を使いつつ、コンテンポラリーアカペラにおける編曲の「定番」を避けた上で、ポピュラリティを得られる楽譜を目指すことにしました。

 

◆参考にした曲

・組曲「ティオの夜の旅」/木下牧子
・宝島/T-SQUARE
・You make me feel brand new/土岐麻子
・Human Nature/土岐麻子


◆編曲のねらい

・「叙景的」な楽曲作り

聴き手の解釈が介在する余地を設け、「伝わる」ではなく「感じる」楽曲を心掛けて書きました。

歌い手のパーソナルな想いを綴る楽曲は、時に聞き手に「聴き方を強制する」ことがあると感じます。

同じ絵画を見ても人それぞれ違った感想を持つように、同じ曲を聴いても違った感想であって良い、という思想から、叙情的な(いわゆるエモい)表現を最小限に留め、特定個人を描いた絵画ではなく、風景画の中の一要素としての「人」という客観的な視点での楽曲づくりを行いました。

 

・「海・空・港・歌う人」の絵画的な構図

この楽曲を書く時、「海っぽさ」を感じるサウンドってどうやって作るのかを勉強するために色んな曲や音を聴きました。
実際のみなとで鳴るであろう音だけでなく、海っぽいなーと感じるコードやメロディ、「みなと」という言葉にまつわる感情・事象を想起させる音などをいっぱい集めるところからスタートしてます。

主観・客観の視点変化、霧笛・波音をモチーフにした音などを用いて、静的な絵をいかに動的に情景描写するかに着眼して描いた曲です。各要素に関連するファクターを想起させるモチーフを曲中の各所に配置することで、より微に入った叙景描写を目指しました。

また、物語の主要な舞台を「現実の港」ではなく「《ぼく》の空想の中の港」に設定しており、《ぼく》は実際に「港」へ足を運んで歌っているのではなく、日常生活の中でふと《きみ》を思い出す時に《ぼく》の心に浮かぶ心象風景として場所を描きました。

 

◆解説

頭:原曲では前奏があるが、ソロに。導入がいきなり逆接から始まるため、言葉の力を活かして《僕》の心の中にフォーカスさせるための工夫。映画やドラマで用いられる、環境音が消えて人物の声だけになる瞬間の表現。イヤホンをつける等、外界から断絶された状態の孤独。

8小節目〜15小節目:モノクロの世界に徐々に色が滲むさま。コードの進行力を意図的に落とすため、先取音・持続音を用いた解決しない進行やテンションコードで調性感を減らした。

15小節目:(なんだこのコードEm9/D)密集解放の効果が欲しかったのと、各声部(特に下3)の旋律に進行力が欲しかった結果、この和音に。

16小節目〜23小節目:律動パートと旋律パートの構造分離(6声ならでは!)。空や風などの上物と、建造物や波などの下物を別々に表現して合体させる。

17小節目:アッパーストラクチャートライアドを用いて、単なるコードの繰り返しにならないような色彩感の付加(6声ならでは!!)

23小節目:時間の停止、スローモーション。ハモリ感のメリハリをつけるべく、この和音ではハモリ感を徹底的に消すために音の積み方を2458度の調性が出ない積み方に。1番高い声の人が目立つなら1stがリードの下に潜れば良くね?音だけでなく、リードの歌詞から「母音」を先取してフォルマント を統一。そのため、実はどんなに音量を出しても大丈夫な作りになってます。

24小節目:みんな大好きadd9。リードが7→6って降りるのと、母音をリードの言葉に合わせて微妙に変化させることで明るさをコントロール(kimitO mOuichidOO母音は全て違う響きなので、コーラスも伸ばしながら微調整している)。音・母音を先取したことで、ハモり切ってからサビ頭に入れるうえ、ハモる時間も長く確保できる。

25小節目:GM9/C。持続音でターゲット音になる外声と和音の芯を固定した上で、F#Gの半音を中で作り、歌詞に含まれる「近づきたい欲求と、それが出来ない諦念」の表現を試みた。

26小節目:リードにう母音が多い歌詞のため、シラブルも「う」に。リードの4種類の「う」に対応しながら歌うと◎

27小節目:The Real GroupBADなどと同様、歌詞を聴かせたい時のシラブルにはハミングを使うと引きたつ。

28小節目:同様に、ブレイクを入れると次の歌詞が引き立つ

29小節目〜33小節目:出港。視線の先にカメラが移動するイメージ。

34小節目〜40小節目:空間音のモチーフを盛り込むことで情景描写を深めるセクション。SopBrのハミングが風や雲の流れる音、Altoのハミングが霧笛。

41小節目〜47小節目:空想とウミネコのセクション。記憶の輪郭が曖昧になっていく様と、ぼんやり聴こえる鳥の声とを重ねて書いた。

48小節目:遊び心で入れました。生死を取り扱う深刻なテーマにならないための工夫。

48小節目〜50小節目:「すれ違う」ことの表現を、後追いのAltoLeadに交差するSopで表現。ハモってる感のない字ハモは第三者の象徴で、セクション後半のハモってる感のある字ハモ(2人の象徴)との対比。

51小節目〜56小節目:LeadAltoの「2人」感。Bメロの後半でのみ「2人」でいる過去の時間が描かれており、ここに感情と温かみと切なさを滲ませることが曲の奥行きを決める

56小節目:全字ハモ(音量注意)。直前のセクションで高まった感情が爆発しようとするが

57小節目:爆発せず、静かに感情の波が去っていく様を下降のベルトーンで表現。この曲は別れを迎えた直後の歌ではなく、既に日常に戻った主人公が生活の中でふと空想の港に想いを馳せる歌であり、もう「会えない」ことは理解して、諦念しているから爆発しないという解釈。カメラワークがぐっと人に寄って隣をすり抜けていくようなイメージ。

59小節目:歌詞の「会うための大事な」に対し「会えない」現実を突きつけるため、残酷なD#dim7を使用・上行と下降音型を混在させている。

60小節目:Bassが独立してリズムキープをすることで間を開けさせない。Tenorの同音進行はやるせなさの象徴。

61小節目〜71小節目:ベースソロ。TRY-TONE『しあわせもあこがれも』より着想。少しボサノバ的なイメージを持ったウッドベースのラインがおすすめ。

72小節目〜73小節目:1Aメロと同じ歌詞だが、違う感情。同じものを見て違うことを思う、改めて思う感覚で。浮遊感を与えるCM92転回形の変形→D7に進まずBm9(♭11)にリハーモナイズして影を感じさせつつオンコードでベースラインを自然な流れにして日常感を維持。

74小節目:ユニゾンからハーモニーへ(音量注意)。原曲とリズムを変え、ユニゾンの入りに意識を集中させ歌詞通りの「優しい」イメージを。

75小節目:ミクロ(野良猫)からマクロ(ユニバース)までの視点の拡大を対行する旋律で表現。

76小節目〜77小節目:一瞬ハッとするCメジャーのトライアドから徐々にテンションノートが増えて色が滲んでいく。記憶が徐々に曖昧になっていく様。

78小節目〜81小節目:キーワードの繰り返し。裏メロディを歌詞付きにする場合は一筆で曲の表現内容を大きく変えてしまう可能性が高いため特に慎重に。

85小節目〜89小節目:後追いのメロディで波音を、コード進行で徐々に遠ざかるカメラワークを表現。

89小節目〜90小節目:D7(♭9,11)→GM9(13)の調性がはっきりとしない和音で余韻と前向きになりつつもどこか寂しさを併せ持った心情を表現。D7(♭9,11)の内声にCmの第二転回を入れたり、Gの終始にEの音を入れることでEmのニュアンスを加えて別れを暗示。

 

以上、「みなと」の解説でした

歌い方次第、聴き方次第、読み方次第で色々な表情が見える楽譜になっていますので、ぜひ歌ってみてください

もし新しい発見があったら、私達にも教えてくださいね

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楽譜についての質問やコメント、音源共有などもお待ちしています

 

それでは、またそこらへんでお会いしましょう

Komei

 

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